はじめに
東京空き家相談協会を立ち上げる背景である”空き家の増加問題”。
総務省「住宅・土地統計調査」にて全国を対象にした空き家数の調査結果は、東京都世田谷区が1位、そして同じく東京都大田区が2位となった。
上位を占めたのはいずれも大都市部。
今回ご紹介する、空き家の活用による地域コミュニティ拠点「こまじいのうち」がある文京区も例外ではない。
空き家に対して、嘆くだけではいけない。
そう思い、今回から不定期で…
空き家・古民家を利活用し新たな価値をつくった先進事例の方々へ突撃取材企画
「空き家に新たな価値を。」をスタート!!
空き家をお持ちの方や、今後空き家を利活用したい方にとって、後押しとなれば幸いです。
記念すべき1回目は文京区にある「こまじいのうち」さん!
こまじいのうちとは
地域みんなの「居間」として、東京都文京区本駒込に2013年にオープン。
「もてあましていた空き家を地域の人みんなに活用してほしい」想いから、赤ちゃんからお年寄りまでが気軽に集まれる憩いの場所として、地域の人に愛されている。
住所:〒113-0021 東京都文京区本駒込5-11-4
お話していただいたのはこちら
こまじいのうちオーナー兼NPO法人居場所コム代表理事 秋元康雄さん
事務局長 三縄 毅さん
マネージャー 船崎 俊子さん
文京区 社会福祉協議会 地域福祉推進係 係長(元地域福祉コーディネーター) 浦田 愛さん
※以下、敬称略
━━━空き家を憩いの場にしようと思った瞬間からオープンまでに、どのような道がありましたか?
(三縄)僕は当時、駒込地域活動センターの所長を務めていて、同じく社会福祉協議会の地域福祉コーディネーターとして地域を回っていた浦田さんと”地域のみんなが集える場所があれば”という話が出ていたんだよね。
(浦田)アウトリーチのためにご相談を拾いに行っていたところ、ごみ屋敷や近隣トラブルなど、「孤立」から起きてしまった問題が浮き彫りになりました。
そのため、もう少し手前で「防ぐ方法」として、人と交流したり、繋がれるような機会がないと、”また同じことを繰り返してしまう”と思ったんですよね。
(秋元)区民側としても元々、地域の人と集まると、近所のお付き合いが希薄になってきていることを感じ、嘆く声も多く出ていたんです。
ちょうどその時、文京区の行政と社会福祉協議会とともに想いがひとつになったことがこの場所の始まり。
当時、神明西部町会副会長を務めていた秋元さんの空き家の活用が決定。
まさに地域・行政・社協の気持ちが一致した瞬間。
それから実行委員会が発足させたのは、すぐのことだった。
実行委員会による協議の中、気軽に誰でも参加できる「カフェこま」や、子育て世代向けの「ゆる育カフェ」など、さまざまなプログラムを調整し、ボランティアの募集が行われ、近くの大学生や地域の方々が集まり、家中の片付けや清掃が行われた。
以下で運営経費を確保。
・12町会から年に1万円ずつの協賛金
・東京都の「地域の底力発展事業助成金」100万円
・利用料
・プログラムごとの各団体に助成される社会福祉協議会の
「ふれあいいきいきサロン」事業の助成金
立ち上げにはさまざまな協力があり、オープニングセレモニー開催まで駆け抜けたという。
━━━「こまじいのうち」を作り上げるメンバーとしてボランティアや学生さんが集まっていますが、どのような呼びかけをしたのでしょうか?
(浦田)文京区の社会福祉協議会にはボランティアセンターがあり、普段からボランティア団体や大学とつながりがあったんです。
そこで、駒込地域で空き家活用の居場所づくりをはじめるので関わりませんか?とアナウンスしました。
10年前、地域の「孤立」の問題が話題になる前でしたよね。
でも、関心をもつ人が集っていき、40名も集まったんです。
今では東京都内の空き家活用の先進事例として、さまざまな地域の方が見学にくるとのこと。
なんと、「こまじいのうち」では10年もの間、集う人たちによる大きなトラブルはない!
禁止しているのは「宗教」「営業活動」「政治活動」たった3つ。
誰が上や下ではない、フラットな関係性づくり。
取材時にも、お互いに真っすぐな言葉を伝えているからこそ尊重し合う様子が伝わってきた。
━━━たくさんの方が集まる場所となっておりますが、改装工事はされたのでしょうか?
(秋元)ある時、コアメンバーから「東京都の助成金に頼っているが、今後のためにこまじいのうちで使われていないスペースをリフォームして、賃貸などの事業をしたらどうか?」という提案が出たんだ。
その企画の財源が課題になっていたところ、フランスに本社を置く酒類メーカー、ペルノ・リカール・ジャパンが、企業CSRとして「日本支社のある文京区内リノベーションができる取り組みを探している」という相談が社会福祉協議会に入ったんだよ。
この場所が紹介され、同社の寄付や私募債で企画が進んだ。
志ある人々には、必ずつながりが生まれる。
若手の建築家や、地元の工務店のご厚意による施工が始まり、自らでできるところはペルノ・リカール・ジャパンから117名の社員と、地域の方々の協力により、全体で2ヶ月間近くかけて完成したそう!
部屋の真ん中の壁を抜く大規模な工事が行われ、親戚の家でパーティをするような感覚になる1階と、まるでカフェにいるようなお洒落な2階で、それぞれ違う魅力があった。
━━━ 最近は、近隣で遊ぶ子どもの声にクレームが入ってしまったりと、世代間に溝ができてしまっていることも現実ですよね。そんな世の流れについてどうお感じですか?
(秋元)公園で子どもが遊ぶ声に対してクレームが入り、遊具の撤去も増えている。
近くの神社で祭が開催されると笛や太鼓を鳴らしているけど、それも”うるさい”という苦情が出てしまう。そんなのはよくないよね。
以前ここで子ども食堂を開いた時に100人くらい集まり、家の前の通路にもたくさんの人がいたんだよ。
結構にぎわったけど、クレームなんて来なかったんだ。
でも次の日、近所に「昨日はうるさくしてごめんなさい」と声をかけたけどね。
普段から顔が見える関係づくりをしているからこそ、人が集い、にぎわうことに対して”この人たちなら大丈夫”と安心されるのだろうと、秋元さんの人柄あふれる笑顔をみて感じた。
人との関わりのなかで、ずっと抱えていた悩みや課題に対するヒントがたくさん隠されている。
公園の遊具撤去をはじめとした子どもの成長過程における極度な規制は、本当に大切なつながりまで切り離しかねないのだ。
━━━「こまじいのうち」10年間の歩みって、とても濃いものだったと思います。特に活動の中で印象に残ったシーンや言葉はありますか?
(船崎)たとえば「子ども食堂」の場合は、人と関わる中で家庭の状況や抱える問題に気づくことがあるんですよね。ケースによっては社協さんに動いてもらうこともあります。
今は子育ての孤立化が進んでいるじゃないですか。
小さなお子さんを連れた若いお母さんがここに来てほっとしたり、子育て上のお悩みを話す場となっています。
赤ちゃんを抱っこしてもらい、「やっと抱っこしてもらえた」と声を漏らしていたお母さんが印象的でした。
小さい子どもと自分の一対一で過ごし、手放す瞬間がないことを苦痛に感じてしまうことがあるからこそ、この場所には、実家に戻ったような安心感はかなりあると思う。
子ども食堂は、子どもに無償または低価格で食事を提供する活動や団体のこと。
食育や地域コミュニティの場にもなっており、私自身も活動に参加したこと経験がある。
━━━最後に、東京都内で空き家が増えている現状について、どう思いますか?
(浦田)実際、空き家に関する相談も届いており、まだまだ課題はありますね。
ゴミ屋敷となってしまい、放置されていることから近隣住民とのトラブルになるケースもあります。改善していかなければいけません。
くわしくお話を伺うと、社協の浦田さんのもとには地域の方から「ここも空き家になっている」「あそこも空き家になっている」とお話をいただくこともあるそう。
日常的に地域の方との結びつきが強いからこそ、リアルな声が届きやすいのではないでしょうか?
ちなみに…
文京区の空き家件数の推移
グラフで見る文京区の空き家数は多い?少ない?(推移グラフと比較) | GraphToChart(クリックで総務省 統計ダッシュボードに移動)
グラフからもわかる通り、文京区の空き家の件数も年々上昇傾向にあります。
件数でいえば2003年が10,460,00件に対し、2013年は12,950,00件。
10年で2,490件の空き家が増えていることになります。
前回比でいえば、2003年から2008年の5年間で1,120件の増加、
同じ5年間でも、2008年から2013年は1,370件の増加となっており、新規宅地と引けを取らずに空き家が発生してしまっていることになります。
2003年から、最新情報である2018年の13,220.00件を比較するとその差は1.26倍!!
実は、現在こまじいのうちのお隣で地域子育て支援拠点となっている「こまぴよのおうち」も、偶然空き家になったお家とのこと!
”そんな偶然があるなんて”と驚いたとともに、すごい巡り合わせだと感動。
家は、人と出会わずにいると朽ちていくばかりですが、出会う人によって様々なカタチに変わることができます。
文京区の「こまじいのうち」は、家自身がもつ価値と、地域の方々との深いつながりを大切にしているからこそ、こうやって長く愛される居場所になっていったのですね。
10年間の強い結びつきとお人柄に触れられるとても素敵な時間を、ありがとうございました。
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